2010年1月 「罪と罰」

今、ドストエフスキーが秘かなブームになり、東京外大学長でロシア文学者の亀山邦夫訳「カラマーゾフの兄弟」はこの分野では珍しく100万部を超える売れ行きだという。

 

中学から高校時代にかけ、トルストイやドストエフスキーを愛読したが、特に、ドストエフスキーの「罪と罰」は主人公、ラスコリーニコフのリアルな心理描写に引きずり込まれ、読み終わったころには、これが自分の周りに起こった現実の出来ごとではなく小説の中の事で本当によかった、と胸をなでおろししたものだった。

 

ラスコリーニコフは貧しい苦学生だが、「選ばれた者は正義を実現させるためには犯罪をも犯す権利がある」と考え、金貸しの老婆とその妹を殺してしまう。 その後、家族を飢餓から救うために売春婦となった敬虔なクリスチャンのソーニャと出会い、罪を告白する。

ソーニャの「今すぐ、今すぐ、十字路に行って、そこに立つの。そしてひざまずいてあなたが汚した大地にキスをするの」 の言葉に促され大地にキスをする。 「ラスコリーニコフの中で、全てが一気に和らぎ・・涙がほとばしり出た。」「広場の中央にひざまずき、地面に頭をつけ、快楽と幸福に満たされながら、よごれた地面に口づけした・・。」

 

大地というのは一つの象徴である。 この小説の人間の心理描写の巧みさと本質を問いかけるテーマに、読後不思議な達成感を覚えた。 私はクリスチャンではないが、この物語を通し、根底に流れるキリスト教思想に深く興味を抱いた。 それは人生での宗教観を変えるものであり、永遠の課題として今に至っている。